おすすめしたい韓国の本
福田 知美
世界に君を叫べ!
 
 ここでは、私が興味深いと感じた韓国の本や今韓国で話題の本を毎月紹介していく。この記事を通して、少しでも多くの読者の方に韓国の良書を知って頂き、 韓国に親しみを持って頂ければ嬉しく思う。   
今月は『世界に君を叫べ!(原題:세상에 너를 소리쳐!)』という本を紹介していく。本書は、現在日本で絶大な人気を誇っている韓国人アーティスト、BIGBANGが初めて書いたエッセーである。この 作品は出版後すぐに韓国で話題となり、あらゆる年代の読者の共感を呼んで韓国2009年総合ベストセラー書籍ランキングで5位にランクインすることができ た。
これまでBIGBANGの音楽やミュージックビデオに触れたことがある人なら恐らく誰もが、彼らのパフォーマンスのレベルの高さに驚いたことであろう。彼 らの卓越した歌唱力と創造力、そしてカリスマ性から、BIGBANGは多くの人の目に「完璧」で「洗練された」アーティストとして映し出されているはず だ。
しかし、本書を読めばそれらは単なるイメージでしかないことに気づく。『世界に君を叫べ!』でメンバーはBIGBANGが有名になる前から現在に至るまで の経緯をそれぞれ描いており、主に所属事務所での過酷な練習生時代の話を中心に綴っている。そこには「完璧」と呼ぶには程遠い苦悩、挫折、そして戸惑いや 焦りなど、彼らの人間らしい姿が記録されている。叶うかどうか分からない歌手という夢に全てをかけ、5人は毎日12時間、歌・ダンス・ウェイトトレーニン グ・外国語等、7〜8つのレッスンをこなしていった。また、BIGBANGのメンバー選定するオーディションはいつ誰が脱落するかが分からないサバイバル 方式であり、彼らは常に不安や疲労と隣り合わせの状況だった。それでも日々成長していくために、そして自分の夢を必ず叶えるために5人は果敢に挑戦をし続 けていった。
本書の魅力は、テレビや雑誌ではあまり知ることができないBIGBANGの数多くの意外な一面に触れることができる点だろう。数ある試練にぶつかるたび に、彼らは何を思い、どう乗り越えてきたか。何に悩み、何を恐れているか。そして、高みを目指し走り続ける彼らの原動力とは何なのか。本書は、青春を駆け 抜けるBIGBANGの情熱を私たちに存分に見せてくれる。5人の挑戦を続ける生き方は熱いメッセージとして読者の心に響くはずだ。
世界に君を叫べ
題名:世界に君を叫べ!
原題:세상에 너를 소리쳐!
頁数:277頁
著者:BIGBANG
出版社名:Sam&Parkers 
発行:2009年1月28日
著者紹介:韓国のヒップホップ・グループ。メンバーは、G-DRAGON(クォン・ジヨン)、SOL(ドン・ヨンベ)、D-LITE(カン・デソン)、 T.O.P(チェ・スンヒョン)、V.I(イ・スンヒョン)の5人。2006年8月に韓国でデビューした後、2009年6月に日本でメジャーデビューを果 たす。ソロ曲の発表、作詞・作曲や演出、舞台やバラエティー番組への出演など、メンバーそれぞれが多彩な分野で活躍している。


本の一部を紹介!
 ここで『世界に君を叫べ!』の一部を紹介していきたいと思う。まずは、私が個人的に意外に感じたBIGBANGの一面が描かれた部分を紹介する。
「僕たちは社会生活を学ぶべき時期の大部分を練習室で過ごしたせいで、みんなかなりの恥ずかしがり屋だ。……数万人を前にした舞台よりも、馴染のない人間 1人の方が怖い臆病者だ。時にはファンと会うときでさえ、恥ずかしくて顔が赤くなる。…だから、BIGBANGに足りないものを1つ選べと言われたら、僕 は迷うことなく社交性を挙げるだろう。デビュー当初は“お食事はされましたか?”という、とても簡単な挨拶でさえ、勇気を出してかけることができないほど だった」(Stage 1「努力して楽しんで、楽しんで努力して…、僕を成長させる方法」から抜粋、著者:G-DRAGON)
舞台での自信に満ち溢れたBIGBANGからは想像もできないような姿だ。世界中から注目を浴びている彼らが、数万人規模の大舞台よりも1人の人間を恐れ るということに大変驚いた。
 
次に少しコミカルな部分を紹介する。これはBIGBANGのお笑い担当とも呼ばれているD-LITEが描いたものだ。BIGBANGについてあまり知らな い人も、ここを読めば親しみを覚えるかも知れない。以下の部分はD-LITEが出演することとなったミュージカル「キャッツ」の練習現場での出来事であ る。
 「最初は(ピタッとした猫のタイツが)恥ずかしくて、みっともないから普段着を着て練習していたが、他の俳優の方はみんなその衣装を着て本番のように練 習に臨んでいるではないか。一緒に出演していたオク・ジュヒョンさんから「今から着ておかないと後で舞台に立ったときになじまなくなる」とアドバイスをさ れたので、なんとか勇気を出して衣装を着て練習に出た。ところが、何てことだ! こともあろうにその日はボーカルトレーニングの日だった。先輩はみんなタ イツではなく楽なパーカー姿で来ているのに、僕1人だけが体にピタッとくっついたタイツを着て来たのだ」(Stage 3「僕は“前向きウイルス”でいたい」から抜粋、著者:D-LITE)

 3つ目は、メンバーの仕事に対する真摯な姿勢が描かれている部分を紹介したい。ここまで高いプロ意識を持った若いアーティストを他に探すことは難しいだ ろう。BIGBANGのレベルの高いパフォーマンスはこのような姿勢から生まれているのだと思われる。
 「僕は趣味で所属事務所の練習生になったのではない。この練習生のプロセスで本当に忠実でしっかりとした人間に成長して、結果を見せることのできる職業 人になろうとしているのだ。僕が進もうとしている道は僕の人生を賭けた仕事であり、冷酷なビジネスだ。当然、過程なんてものはあまり重要ではない。“頑 張ってやったのに何で分かってくれないんだ”という甘えは通用しない。誰だって一生懸命するものだ。……実力に対する評価を客観的に冷静に受け止める準備 ができていなければ、どんな仕事であろうと成功することはできないと思う」(Stage 2「“運命”はまるで“偶然”のように僕のもとへ訪れた」から抜粋、著者:SOL)

 BIGBANGは「完璧」で出来上がったアーティストではなく、これからもっと発展していく「進化系」アーティストである。最高を目指してこれからもど んどん邁進し続ける彼らの前向きなメッセージを最後に紹介したいと思う。
 「僕たちが本当に恐れないといけないものは失敗ではなく、挑戦と変化を恐れるカチカチの心を持つことだ。もし今挫折という壁にぶつかって静かに泣いてい る友人がいればこう言ってやりたい。“倒れても大丈夫だ! 俺たちまだ若いじゃないか”」(G-DRAGON)
 
「“学ぶこと”こそ、僕の最も大きなエネルギー源だ。この世界に僕たちが知るべきこと、学ぶべきことが多いということは本当にうれしくてわくわくする。ポ イントをどんどん貯めていく気分とでも言おうか? 良いことを学んでおけばそれを自分のものとすることができるからだ」(SOL)

「だから僕は笑う。願いを手放した瞬間そこには絶望が残るが、希望を抱いた瞬間そこには奇跡が起きるというから。人生はいつでも僕たちに希望のノックをし ている」(D-LITE)
 
「“自分はこんな人だ”というように何かを決めつけるのはやめた方がいい。“自分自身”というきまりきったものなんてどこにもないのだから。僕はひたすら 自分が創っていく通りに創り出されていく。人間が持っている欲の中には良くないものもあるが、真の欲とは“自分が創りたいように自分を創っていく”ことだ と思う。」(T.O.P)
 
「挑戦は怖くない。失敗も怖くない。一生懸命すれば、諦めなければ、必ず成し遂げられるという事実を今までたゆまず学んできたから。僕が進む道がどんなに 険しくでこぼこしていたとしても僕は知っている。この道の先には僕が望む世界が待っているということを」(V.I)
(2011年1月号)